大豆を納豆に変える「納豆菌」。
身の回りの菌の中でも有名な菌の1つですが、この納豆菌とはそもそもどんな菌なのでしょう?
さらに、健康効果が高いイメージがある納豆菌の実際の働きとは?
納豆菌の衝撃の強さと、納豆菌が大豆を納豆に変える発酵過程についてもまとめました。
納豆菌とは?
納豆菌は枯草菌(こそうきん)と呼ばれる菌の一種です。
枯草菌とは、その文字通り、枯れた草に生息している菌の総称。
そのうち納豆菌は稲わらに付着していることが多い菌となります。
昔ながらの納豆が↑のように稲わらに包まれているのは、稲わらに納豆菌が付着しているからなのですね。
ちなみに、稲わら1本に約1000万個の納豆菌が芽胞(がほう)の状態で付着しています。
そんな納豆菌ですが、ひとくちに「納豆菌」といってもさまざま。
稲わらの状態や育った環境などで付着する納豆菌の種類は異なり、特徴も多少変わります。
納豆をはじめ、豆腐など大豆製品の販売を行うタカノフーズでは、そういったさまざまな環境で育った納豆菌を採取・分析し続け、現在では2200種類を超える納豆菌を研究しているとのこと。
納豆菌の研究を進めることで『匂いが控え目な納豆』や『柔らかい食感の納豆』など新たな商品開発に生かしているそうです。
同じ納豆菌でもいろいろな種類があり、種類によってできる納豆もちょっとずつ変わるなんて、考えたこともなかったです。
強すぎる納豆菌のスゴい特徴
納豆菌(枯草菌)には芽胞(がほう)という、とにかく耐久性に優れた細胞構造を作るという特徴を持ちます。
芽胞は、過酷な状況に置かれた場合に生き延びるための休眠状態とする構造です。
芽胞の状態になった納豆菌は、
- 100℃の高温
- -100℃の低温
- 乾燥
- 真空状態
- 宇宙空間
- 栄養不足
- 石けん・アルコールなどでの消毒
- 酸性
という過酷な状況でも生き抜く強さを持ちます。
ただし、この芽胞の状態にある納豆菌は繁殖できず、発酵もできません。
そして、繁殖に適した平和な環境に置かれると芽胞は発芽し、繁殖を始め、発酵を始めます。
繁殖できる状態になるまでひたすら耐え続ける、納豆菌のひたむきな強さを感じますね。
このように納豆菌は他の菌類と比べても生命力・繁殖力が圧倒的です。
その強さは日本酒などのもととなる麹菌をダメにしてしまうため、酒蔵などから忌避されてきたほど。
現代は技術や科学的知識の普及により、かつてよりは敬遠されなくなりましたが、それでも「酒の仕込みの時期は納豆を食べない」などの伝統は残ります。
大豆が納豆になるまで
大豆はどのように納豆になるのか、その過程を簡単にまとめます。
現在ではほとんどの納豆が工場で大量生産されています。
工場では、蒸した大豆に納豆菌の分散液をまぶし、販売する容器に入れて40℃ほどの温度で発酵させるという製法が主流です。
発酵後は流通に備え10℃ほどの低温化に置き発酵を止め、アンモニアの増殖を抑えています。
ここからは昔ながらの稲わらを使った製法を紹介します。
➀稲わらを煮沸する
納豆菌が付着している稲わらはまず熱湯で煮沸消毒します。
強すぎる納豆菌のスゴい特徴でも説明しましたが、納豆菌は煮沸消毒しても死滅しません。
しかし、納豆菌以外の菌、雑菌たちは普通に死滅します。
そのため煮沸消毒した稲わらには、ほぼ納豆菌のみが残った状態になります。
一部の残った菌たちも、発酵の過程で納豆菌の繁殖により駆逐されます。
煮沸消毒することで、雑菌が繁殖するのを防ぐとともに、大豆が納豆としてしっかり発酵するのをサポートできるのですね。
②大豆を蒸すor煮る
納豆にするためには、大豆を蒸して(煮て)しっかり加熱する必要があります。
蒸し大豆でも煮大豆でもどちらでもOKですが、蒸し大豆の方が主流です。
③大豆を発酵させる
蒸した大豆を稲わらに詰めて発酵させます。
このとき大豆を詰めた稲わらを置く環境は40℃前後にキープします。
40℃前後の温度下を保ったまま1日ほど置けば完成!納豆のできあがりです。
大豆を発酵させるために必要な要素は
- 納豆菌
- しっかり加熱された大豆
- 40℃前後の一定の温度
- 適度な湿度
- 酸素
- 発酵にかかる時間
という6ポイント。
このポイントをしっかり守れば家庭でも納豆は手作りできます。
ちなみに、納豆菌は市販の納豆でも代用OK。
一番のネックは温度を40℃前後に一定に保つことでしょうか?
湿度は高すぎると腐り、低すぎると乾燥してしまうのも難しいポイントです。
また、発酵には時間がかかるので1~2日ほどゆっくり時間をかけて発酵させていくのが良いでしょう。
納豆菌のスゴい働きとは?
大豆を発酵させ納豆にする納豆菌。
そんな納豆菌のスゴさを解説します。
納豆菌は大豆の旨みを増す
まず納豆菌は大豆のたんぱく質をエサに増殖します。
納豆菌は大豆のたんぱく質を食べ、増殖するとともにたんぱく質をアミノ酸へ分解していきます。
アミノ酸はうま味成分の一種。
大豆のたんぱく質はアミノ酸の一種・グルタミン酸に分解されます。
納豆菌によって分解されたグルタミン酸はちょっと特殊で、長くつながった状態になるとのこと。
この長くつながったグルタミン酸が、納豆が糸を引く、ネバネバの正体です。
ちなみに『納豆はよくかき混ぜると美味しくなる』という噂がありますが、この情報は正しく、うま味成分グルタミン酸を感じやすくなるからとのこと。
何となく一生懸命混ぜていましたが、納豆を必死に混ぜるのは正しい行為だったのですね。
納豆菌は血栓予防の酵素を生み出す
納豆菌は大豆の発酵過程でたんぱく質分解酵素である「ナットウキナーゼ」を生成します。
このナットウキナーゼには血栓を予防するという効果があり、この酵素の名前をそのまま使ったサプリメントも多数販売されています。
Amazon.co.jpで「ナットウキナーゼ」を検索 ≫そもそも『血栓』とは血管をつまらせる血の固まりのこと。
ナットウキナーゼはこの血栓を溶かし、血栓によって引き起こされる脳梗塞や心筋梗塞のリスクを下げることができます。
酵素であるナットウキナーゼは熱に弱いため、加熱しないで食べることをオススメします。
納豆は基本、加熱しないのでそこまで気にする必要はなさそうですね。
また、ナットウキナーゼが溶かす血栓は深夜から早朝にかけて作られるという性質があります。
したがって、血栓が作られるのを予防するために夕食以降のタイミングで納豆を食べることがオススメです。
納豆菌はビタミンK2を生み出す
納豆菌は骨の形成促進に深く関わる「ビタミンK2」を多く生み出します。
天然のビタミンKには、ビタミンK1(フィロキノン)とビタミンK2(メナキノン類)の2種類があります。
そのうち、ビタミンK1は植物の葉緑体から、ビタミンK2は微生物から生成されます。
納豆菌という微生物(細菌)から生み出されるため、納豆のビタミンKはビタミンK2なのですね。
※ここからは「ビタミンK」と表記を統一します。
また、ビタミンKには血液凝固作用もあり、ビタミンKが不足するとケガで出血したときに血が止まりにくいというデメリットを引き起こします。
そんなビタミンKですが、実は大豆にはあまり含まれていません。
100gあたりに含まれるビタミンK2の量を比較すると、茹で大豆では7μgですが、納豆では880μgと125倍以上に増加!
納豆菌の発酵パワーにより生み出される栄養素だったのですね。
納豆はビタミンKが豊富すぎて注意点も
また、血液凝固をサポートするビタミンKが多く含まれるために、納豆には注意点もあります。
それは、抗凝血薬、つまり血が固まることを防ぐ薬を飲んでいるときには食べられないことです。
抗凝血薬として有名なワルファリンを服用時は、効果を相殺してしまうため、納豆を食べることは避けるべきとされています。
そのくらい納豆は血を凝固させる力が強いのですね。
その他にも納豆菌には
- 整腸作用
- 抗菌作用
- 虫歯・歯周病予防
といった働きがあるとされています。
納豆菌は万能ですね。
【デメリット?】納豆菌は臭気を残す
納豆菌は発酵過程で特有の臭気を生み出します。
納豆の匂いは、一説によると、68種類もの匂い成分から構成されているとのこと。
そのうちの1つはアーモンドやココアなど、さまざまな食品に含まれるピラジン。
また、アンモニア成分も含まれ、発酵が進みすぎるとアンモニア臭を強く感じるようになります。
あの何とも言えない匂いのせいで納豆が嫌い!という方も多いでしょう。
わたしも昔は納豆が嫌いだったので、匂いがイヤという気持ちはよく分かります。
そんな納豆臭さですが、近年はこの臭気を抑えた納豆も販売されるなど対策が進んでいます。
納豆が好きな方はあの匂いも含めて好き!という場合が多いので好き嫌いが分かれそうですが、納豆の匂いが苦手な方にはオススメできそうですね。
ここまで「納豆菌」の働きについてまとめました。
圧倒的な生命力と繁殖力を持ち、食べると健康に良い効果がたくさんある納豆菌。
想像以上に納豆菌パワーがスゴすぎてビックリしますよね。
納豆菌をはじめ、菌活は毎日食べ続けることがポイント!
食卓に身近な納豆で、毎日の健康を守りましょう。